Si dom が見ている世界 モノローグ 

私は過去に関わった人の顔を鮮明に思い出せる。それは仲の良い人はもちろん、大して関わったことのない人の表情や声さえもだ。例えば小学校の友人Aを思い浮かべるとき、まずその友人の最も魅力的な表情 ——それは多くの場合笑顔であることが多い—— が静止画で浮かび上がってくる。そして次にその友人との主要な思い出が、静止画のコマ送りで流れてくるのだ。視覚的情報が思い出されるだけではない。小学生時代の私が感じた身体的感覚を伴う情動を、あのときのまま、鮮明に追体験するのである。ただしこれはトラウマをフラッシュバックするのとは違い、現実との区別がつかなくなるほどのものではないしネガティブなものからポジティブなものまで様々な思い出が対象となる。

友人Aは絵がとても上手だった。彼の才能は私だけでなく多くのクラスメイトの注目の的であった。私は、彼に憧れ自由帳に何枚も絵を描き、彼の画力に近づこうとした。デッサンの仕方をネットで調べて漫画家の真似をして顔に十字線(アタリ線)を描いてみたりした。小畑健の画力に感激し、デスノートの模写をしてみたりもした。そうやって絵を2年間描き続けた結果、興味を持ち始める前よりも多少画力は上がったものの、友人Aほどの画力を得ることは叶わなかった。私のそのときの感情は悔しさ、それでも変わらぬ尊敬と憧れ、絵を描いた達成感など色々なものが混ざり合っていたと思う。それらの情動が当時のまま、友人Aを思い返すと内面からじわっと湧き出てくるのである。

こんな私の性質もあって、久々に懐かしい友人と会おうというときは得てして当時の初々しい自分にタイムスリップする。しかし、人というのは変わっていくものだ。最寄りの駅で、あの時とは全く違う見た目をした友人と再会を果たし、カフェに向かう。その道中で会話をしているうちに見た目だけでなく趣味も性格も考え方も変わっていることに気づく。そうして私は、自分の思い描いていた友人のイメージがもはや過去のものであり幻想に過ぎないことを突きつけられるのである。私は一抹の寂しさを感じつつも、お互いに今を生きていることを嬉々として受け入れ、新たな関係をその友人と結んでいく。

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そんな私はアロエヨーグルトが大好きだ。一つ目の理由は純粋に味、二つ目は健康に良いこと、三つ目は慣れ親しんでいることである。特に私は胃腸があまり強くないため、健康的な生活をするのにとてもお世話になっている。ヨーグルトが食べるのが習慣になる前はしょっちゅうお腹を下していたものだが、今はそのようなことはほぼなくなり快適な毎日を過ごしている。もはや私にとってヨーグルトのない生活など考えられない。ヨーグルトのとろみとアロエのあのなんとも形容し難い食感を味わわないことには1日は始まらないのである。しかし、こんなヨーグルト好きの私でも彼に不信感を覚えたことがあった。ヨーグルトをよく食べる人ならお分かりかと思うが、賞味期限ギリギリのヨーグルトの蓋を開けると、ときたま膜が張っていることがある。私はあるときそんなヨーグルトを目撃し、とてつもない嫌悪感に襲われてしまったのだ。蓋を開けたらそこに見えるであろう景色がない。このヨーグルトは何かが違う。変質しているのではないか。味が劣化しているのではないか。本来の栄養が失われているのではないか。お腹を壊してしまうのではないか。原始人が新種のキノコを見つけた時も同じような疑い ——劣等Neの発露とも解釈できそうだ—— を抱いたに違いない。私は、大好きだったはずの、慣れ親しんでいたはずのあのアロエヨーグルトが何か毒を持っていそうな、得体の知れない液体かのように見えたのである。私は渋々その”得体の知れない液体”を平らげ不愉快な気分でその日の朝食を終えた。以降同じような膜を張ったヨーグルトは何度も出くわしたが、2回目以降はその不快感がどんどん半減していき、今では膜を張っているヨーグルトでもなんら変わりなく楽しむ事ができるようになった。

ここまで読んでくださった方の中にはもしかしたら、私が精神病か何かを患っているのではないかと疑いを持つ者がいるかもしれないが、私は至って健康でありこれらの錯覚が錯覚であるとはっきり自覚していたことをここではっきりさせておく。が、仮にSiが病的なまでに高じた場合、現実と主観的知覚を区別できなくなり、膜を張ったヨーグルトが毒であると信じて疑わないような、そんな一種の妄想状態に陥ってしまうのかもしれない。

Si dom である私はこのようにもっぱら世界を自身の主観を通して見ている。Siは自分の体調を正確に把握し規律正しく快適な生活を送るのに役立つのでメリットも大きいが、「色眼鏡で見る」という慣用句に近いところがある。Siの働きが過剰になると過去の栄光や過ち、偏見に囚われ客観的な判断を下せなくなったり、チャレンジすることを恐れ過度に保守的になってしまう面もある。時には劣等Neを使って未知の世界にとびこむ勇気も必要だなと思う。

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